CAFE法及びMCAFE法による鋳物のミクロ,マクロ組織とポロシティ予測 [2]

Computer Simulation of Micro,Macro  Structures and Porosity in Castings by CAFE and MCAFE

鋳造工学 Vol.83(2011),No.9に掲載



1.はじめに

 前回の連載講座のでは,マクロスケールの湯流れ,凝固,欠陥解析の結果を連成して,メゾスケールのCAFE法によってマクロ結晶粒組織と ポロシティの予測ができることを紹介した.また, MCAメッシュを使用してMCAFE法によって鋳物のミクロ組織とミクロポロシティが予測できることも紹介した. 今回の後半の部では,鋳物のミクロ,マクロ組織とポロシティ予測の実際例について述べる.

2.銅合金鋳物

 Cu-8%Sn合金円柱鋳物の解析のメッシュモデルを図1に示す.側面は断熱鋳型で,底部はステンレス鋼である.凝固時はバーナー加熱を行い, できるだけ一方向凝固になるような条件で鋳造している1). 湯流れ,凝固解析の結果を図2に示す.マクロスケール解析なので,FEMメッシュを使用し サイズは約2mmである.(a)は注湯時の温度変化で,(b)は凝固時間分布である.底面から上部へのほぼ一方向凝固がなされている.    
図1 銅合金円柱鋳物のメッシュモデル 図2 銅合金円柱鋳物の湯流れ、凝固解析結果

 マクロスケールシミュレーションによって得られた断面のポロシティ量分布を図3に示す.図2と同じメッシュを使用しており, 結果はポロシティ量の分布図で得られる2). 円柱上部にポロシティ量の大きい部分が見られる.    
図3 マクロスケールシミュレーションによって得られたポロシティ量分布

Page TOP

 メゾスケールシミュレーションによって得られたマクロ結晶粒組織を図4に示す.CAメッシュのサイズは200μmである.左図が実験結果で 右図がシミュレーション結果である.解析は3次元で行ったが,断面のみの結果を表示している.マクロ結晶粒組織は比較的良く一致している. メゾスケールシミュレーションによって得られたポロシティを図5に示す.左図はカラーチェックによる実験結果で,右図は結晶粒組織と一緒に表示したポロシティである. 実験結果とシミュレーション結果は比較的良く一致している.    
図4 メゾスケールシミュレーションによって得られたマクロ結晶粒組織 図5 メゾスケールシミュレーションによって得られたポロシティ

Page TOP

 ミクロスケールシミュレーションによって得られたCu-8%Sn合金のミクロ組織とポロシティを図6,7に示す.図6は柱状晶域であり, 図7は等軸晶域の場合である.MCAセルのサイズは1μmであり,解析領域は1mm四角である.(c)の計算ミクロ組織は実験と比較し易くするために, 凝固率約0.9の時点を示した.実験と計算のミクロ組織は比較的良く一致している.(d)の計算ポロシティは凝固が完全に終わった時点の結果を表示した. ミクロポロシティも実験結果と比較的良く一致している.鋳物のミクロスケールのシミュレーションを行うことによって,ミクロポロシティの予測が可能になり, 耐圧洩れ性や疲労強度の予測にも将来活用されるようになると思われる.    
図6 ミクロスケールシミュレーションによって得られたCu-8%Sn合金のミクロ組織とポロシティ(柱状晶域)
   
図7 ミクロスケールシミュレーションによって得られたCu-8%Sn合金のミクロ組織とポロシティ(等軸晶域)

Page TOP

3. タービン鋳物

 KermanpurらがLMCプロセスによるNi基超合金タービンブレードの結晶粒組織予測について報告した3). ここでは,報告された精密鋳造タービンブレードを対象にしたマルチスケールシミュレーションを紹介する.Kermanpurらの実施した LMCプロセスによるタービンブレードの精密鋳造方法を図8に示す.解析用メッシュの拡大図を図9に示す.鋳物のFEMメッシュサイズは約2mmで, 空気や高温炉はそれより粗くメッシュ分割した.
図8 LMCプロセスによるタービンブレードの精密鋳造方法 図9 LMCプロセスによるタービンブレード解析用メッシュ拡大図

 図10にマクロスケールの凝固解析で得られた凝固パターンに及ぼす降下速度の影響を示す.(a)は降下速度が0.025cm/sの場合で (b)は0.0025cm/sの場合である.LMCプロセスでは降下速度を変化させることによって,凝固パターンが大きく影響されることが分かる.液相中のマクロ的な 溶質移動を考慮した場合とそうでない場合のタービンブレードの400sと1000sの液相率分布の解析結果を図11に示す.溶質移動を考慮したほうが凝固が遅れ, 鋳物上部では凝固を開始するのがかなり遅くなる.マクロ的な溶質移動を考慮すると,前回の連載講座の図4で説明したように凝固が初期組成から始まる デンドライト凝固からセル凝固,平滑界面凝固に近づくようになるため凝固の進行が遅くなると考えられる.このように,一方向性凝固鋳物のマクロスケール解析では マクロ的な溶質移動を考慮することが重要である.
図10 全体モデルの一部をCAセルモデルに変換 図11 CAセルメッシュとFEMメッシュの比較

Page TOP

 タービンブレードの温度分布に及ぼす対流の影響について,降下速度が0.025cmの場合で300sの時点の結果を図12に示す. (a)に示すように鋳物中に低速ではあるが全体に対流移動が行われる.(b)に示すように単純な指向性凝固ではなく乱れた温度分布になっていることが分かる. 低速で一方向性凝固の解析する場合には対流の影響を考慮することが重要である.

図12 タービンブレードの温度分布に及ぼす対流の影響
(降下速度0.025cm/s,300sの時点)

Page TOP

 メゾスケールのマクロ結晶粒組織形成シミュレーションの解析例を図13に示す.製品部の結晶粒の形成が終わって,押湯部が結晶粒を形成している 時点の出力である.押湯部分は一方向性凝固にはなっておらず等軸晶が形成されている.マクロ結晶粒組織に及ぼす降下速度の影響を図14に示す.(a)は降下速度0.025cm/sの 場合で(b)は0.0025cm/sの場合である.降下速度が小さいほうが,製品,押湯部分の凝固の指向性が強くなり,組成的過冷が小さくなることより,等軸晶が出にくく全体が 柱状晶組織になる.しかしながら,解析で降下速度をもっと小さくしたり,温度勾配を大きくしても単結晶組織にはならなかった.この理由は対流の影響で温度分布が完全には 一方向性にならなかったことと,単結晶セレクターを使用していないためと考えられる.

図13 タービンブレードのマクロ結晶粒組織形成シミュレーションの解析例 図14 マクロ結晶粒組織に及ぼす降下速度の影響

Page TOP

 タービンブレードのマクロ結晶粒組織の実験結果と解析結果の比較を図15に示す.降下速度は0.01cm/sの場合である. Kermanpurら3)の実験結果に比べてKermanpurらや著者ら4)の解析結果は比較的良く一致している.製品下部と押湯部は実験では 等軸晶になっているが,Kermanpurらの解析結果では柱状晶になっている.これはKermanpurらの解析では,製品の側面では結晶粒の核生成が起こらないと 仮定しているためである.著者らの解析ではこのような仮定を設けなくても比較的近い解析結果を得ることが出来た.これは,マクロスケールの凝固解析で 溶質のマクロ的移動を計算して凝固の固液界面の温度低下を考慮したとによって指向性凝固が良くなり,横方向の結晶成長が小さくなったためと考えられる.

図15 タービンブレードのマクロ結晶粒組織の実験結果と解析結果の比較

Page TOP

 Kimら5)はIN738LCの凝固過程を一方向性炉を使って調べた.Kimらは図16に示すような,IN738LC合金の熱分析曲線を報告した. 1328℃で凝固開始し,1290℃でMC炭化物を形成し,1195℃でγ/γ´共晶凝固が開始し,1185℃で共晶凝固が終了する.このデータを使用してミクロスケールの 組織解析を行った.ミクロ組織解析位置を図17に示す.解析範囲は1mm四角でMCAメッシュサイズは1μmである.
図16 IN738LC合金の熱分析曲線5) 図17 ミクロ組織解析位置

 図18にIN738LC合金のミクロ組織のKimらの実験結果と解析結果の比較を示す.Kimらの実験はタービンブレードではなく φ5mm円柱鋳物を一方向性凝固炉で凝固させて途中で急冷した試料を観察したものである.降下速度が0.01cm/sと0.0025cm/sで比較したが,0.01cm/sでは0.0025cm/sに比べて, デンドライトは1次,2次のどちらもが細かく,2次,3次の枝が良く発達している.実験と解析は比較的良く一致していると考えられる.
図18 IN738LC合金のミクロ組織の実験結果5)と解析結果の比較

Page TOP

4.球状黒鉛鋳鉄鋳物

 球状黒鉛鋳鉄は球状化処理の影響で過冷凝固することは良く知られている.球状黒鉛鋳鉄の凝固特性を知るために図19に示すCEカップが 利用されることが多い.CEメータの温度履歴をマクロスケール凝固解析によって精度良く一致する報告がされた6).まず,過冷凝固のモデル化には 相沢の式7)を使用している.図19に冷却曲線の実験値を示すが,計算値がこれとできるだけ近くなるように,図20に示すようなパラメータの最適化を行う. 最適化されるパラメータとしては,伝熱計算条件の多くの変数が考えられるが,鋳鉄の凝固解析では,鋳物/鋳型間の熱伝達係数と相沢の式の定数A,Bを最適化すると 良い結果が得られた6).得られた計算結果を図19に示す.

図19 球状黒鉛鋳鉄の過冷凝固解析 図20 マクロスケール凝固解析に使用するパラメータの最適化

Page TOP

 図21に球状黒鉛円柱鋳物のメッシュモデルの断面図を示す8) .円柱の鋳物の直径は15,20,25,30mmである. 球状黒鉛鋳鉄円柱鋳物の冷却曲線の実測値と計算値の比較を図22に示す.実験が実線で計算が点線であるが良く一致している.鋳物/鋳型間の熱伝達係数と 相沢の式の定数A,Bは最適化した値を使用した.過冷凝固も相沢の式によって精度良く再現できている.

図21 球状黒鉛円柱鋳物のメッシュモデル(断面図)
図22 球状黒鉛鋳鉄円柱鋳物の冷却曲線の実測値と計算値の比較

Page TOP

 球状黒鉛鋳鉄のミクロスケール凝固組織のシミュレーション結果9)を図23に示す.鋳物は図21の直径20mmの円柱鋳物で, 解析は温度測定位置で行なった.(a)の19sの時点では,丸い形状のオーステナイトデンドライトが多く晶出して,球状黒鉛が少し核生成している. (b)の20sの時点では,残留液相の黒鉛濃化域で追加の球状黒鉛核が生成する.(c)の22sの時点では,既に核生成した球状黒鉛が成長し,さらに追加の黒鉛核生成が起こる. 初晶オーステナイトの多くは成長して融着し,残留液相の量も少なくなっている.(d)の23sの時点では,凝固がほぼ完了しオーステナイトデンドライトはほとんどが隣同士融着し, 一部C濃度の高い部分(図中細く黒い部分)が存在する.図24に黒鉛の部分のみを表示した黒鉛組織の解析結果と実験結果(腐食なし)の比較を示す. 黒鉛粒のサイズと形状が比較的良く一致している.

図23 球状黒鉛鋳鉄のミクロスケール凝固組織のシミュレーション 図24 黒鉛組織の解析結果と実験結果の比較

Page TOP

 図25に片状黒鉛鋳鉄のミクロスケール凝固組織のシミュレーション結果を示す.(a)の21sの時点では,オーステナイトデンドライト間の残留液相内に 片状黒鉛が少し核生成する.(b)の22sの時点では,初晶オーステナイトの多くは成長して融着し,残留液相の量も少なくなっている.既に核生成した片状黒鉛が成長し, さらに追加の片状黒鉛の核生成が残留液相内で起こっている.(c)の23sの時点では,凝固がほぼ完了し,オーステナイトデンドライトはほとんどが隣同士融着し,一部C濃度の 高い部分(図中細く黒い部分)が存在する.(d)に23sの時点の黒鉛組織のみを表示した.黒鉛はD型またはE型と呼ばれる形状であった.2次元平面での解析であるので, A型のように黒鉛が3次元的に十分に成長したものは得られなかった.

図25 片状黒鉛鋳鉄のミクロスケール凝固組織のシミュレーション

Page TOP

5.まとめ

鋳物のミクロ,マクロ,ポロシティ組織予測の実際例について,次のようにまとめられる.
(1)Cu-8%Sn合金円柱鋳物のマクロ結晶粒組織,ミクロ組織,ポロシティがCAFE法及びMCAFE法で予測できた.
(2)Ni基超合金タービンブレードのマクロ結晶粒組織,ミクロ組織がCAFE法及びMCAFE法で予測できた.
(3)球状黒鉛鋳鉄円柱鋳物の冷却曲線が過冷却も含めて精度良く解析できた.
(4)球状黒鉛鋳鉄と片状黒鉛鋳鉄もミクロ組織形成のシミュレーションをMCAFE法で行なえるようになった.

文献

1) 福迫達一,久保公雄,大中逸雄,山本雄三:鋳物 53 (1981) 123
2) K.Kubo, R.D.Pehlke : Metall. Trans. 16B (1985) 359
3) A.Kermanpur, N.Varahram, P.Davami, M.Rappaz : Metall. Mater. Trans. B (2000) 1293
4) 久保公雄,佃公博,朝尾浩光,出来尚隆:第151回全国講演大会講演概要集(2007) 108
5) H.C.Kim, Y.H.Kim, Y.G.Jung, J.H.Lee, C.Y.Jo, U.Paik : Materials Science Forum 510-511 (2006) 450
6) 朝尾浩光,青沼登代子,久保公雄,中江秀雄,瀬谷直樹:第150回全国講演大会講演概要集(2007) 36
7) 相沢達志:鋳物50 (1978) 683
8) 中山英明,佐藤和則,山田聡,朝尾浩光,久保公雄:第156回全国講演大会講演概要集(2010) 21
9) 久保公雄:第147回日本金属学会講演概要(2010) 165



(C) CAPCAST INC. ALL RIGHTS RESERVED.