鋳造シミュレーションソフトCAPCAST®

Casting Simulation System by CAPCAST®

鋳造工学 Vol.86(2014),No.12に掲載



1.はじめに

鋳造シミュレーションシステムCAPCAST®は,形状近似精度の良い有限要素法メッシュを使用して高精度に鋳造現象の予測ができるソフトウェアです. 本システムの大きな特徴は次の4つの点です.一つ目は,複雑大物形状の鋳物,多数に分割された鋳型,複雑な冷却系,見切り面等の有限要素法メッシュを同時かつ高速に 作成できる点です.また,作成したメッシュは形状精度がよいので,湯流れ,凝固,変形解析を同一モデルで連続的に実施できます. 二つ目は,マルチスケール鋳造シミュレーションとして,鋳物のミクロ組織やマクロ組織,ポロシティの解析が可能な点です.三つ目は,鋳物のポロシティ欠陥を独自の技術で 高精度に予測することができる点です.四つ目としては,マクロスケールの鋳造シミュレーションとミクロスケールの鋳造組織と機械的性質を結びつけた統合型鋳造シミュレーションが できる点です.これらのことを,紹介させて頂きます.

2.メッシュ形状によるシミュレーション手法の比較

 鋳造シミュレーションに使用されるメッシュ形状には,有限要素法メッシュ,直交メッシュ,混合メッシュがあります.これらのメッシュを使用した場合の, 形状精度,解析精度,プログラムの複雑さについて表1に整理しました.有限要素法メッシュを使用した場合は,任意の六面体,五面体等の要素を用いた形状精度の良いメッシュが 作成出来るため,解析精度も良くなります.一方,直交メッシュを使用した場合には,メッシュは容易に作成できるものの,サイコロを積み上げたような形状精度の悪いメッシュに なってしまうために解析精度も悪くなります.混合メッシュを使用した場合は中間の特徴を持ちます.

表1 メッシュ形状によるシミュレーション手法の比較

 CAPCAST®は,一般的にメッシュ作成が困難で時間もかかると言われている有限要素法メッシュを迅速で簡単に自動作成する手法を開発しました. これによって,小物砂型鋳物では数秒で,ダイカストでは組み合わせ金型と冷却系を含む大物ダイカスト品でも数分でメッシュ作成できるようになりました.

 図1にY字状湯道の各種メッシュモデルを示します.有限要素法メッシュを使用すると形状精度の良いことが分かります.図2にメッシュによる湯流れ解析精度の 違いを示します.有限要素法メッシュでは,分岐後の2本の湯道の流速ベクトルと流量が同じことが分かります.直交メッシュと混合メッシュでは真上方向に分岐した湯道が斜め上方向 に分岐した湯道に比べて流速ベクトルと流量が大きくなってしまっています.このように,有限要素法メッシュを使用することによって高い解析精度が得られることが分かります.    
図1 Y字状湯道の各種メッシュモデル
   
図2 メッシュによる湯流れ解析精度の違い

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3. マルチスケール鋳造シミュレーション

 図3に示すマルチスケールという観点から見ると,従来の鋳造シミュレーションはマクロスケールの解析に分類されます.これには湯流れ,凝固,欠陥, 変形解析が含まれます.一般に,マクロスケールの解析では有限要素法と直交差分法が用いられ,そのメッシュサイズは1mmから数cmの範囲が一般的に使用されています. CAPCAST®では有限要素法メッシュを使用するので形状精度が良いのが利点です.    
図3 マルチスケール鋳造シミュレーション

 メゾスケールの解析は数μmから1mm程度のサイズの直交メッシュ(CAメッシュ)を使用して,CAFE法により解析を行います. 結晶粒組織やポロシティの定量予測ができます.

 ミクロスケールの解析は,0.1μmから数μm程度のサイズの直交メッシュ(MCAメッシュ)を使用して,デンドライト組織やミクロポロシティの解析を 行うことが可能です.一般に,ミクロスケール解析にはMCAFE法とフェーズフィールド(PF)法の2種類の手法があります.フェーズフィールド法では1つのデンドライトのみを 取り扱うことが多く,鋳物のように多くのデンドライトを同時に取り扱う必要がある場合にはMCAFE法が適していると考えられるため,CAPCAST®ではMCAFE法を 採用しています.

鋳造の各スケールにおけるシミュレーションを図4に示します.(a)は保持炉から取鍋への注湯のマクロスケールシミュレーションです. 溶湯保持時や注湯時の温度変化を予測出来ます.(b)は取鍋から鋳型への注湯のマクロスケールシミュレーションです.湯廻り不良,湯境欠陥,ガス巻き込み,湯流れパターン, 注湯完了時の温度分布等を出力することが出来ます.(c)はメゾスケールにおける凝固時の結晶粒組織シミュレーションです.マクロ結晶粒組織を予測出来ます. (d)はミクロスケールにおける凝固時のミクロ組織シミュレーションです.    
図4 鋳造の各スケールにおけるシミュレーション

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4.ポロシティ欠陥予測

4.1 重力鋳造鋳物のポロシティ欠陥

 CAPCAST®ではデンドライト間流動を考慮したポロシティ欠陥発生の独自のモデルを提案して欠陥解析を行っています. 板状鋳物のポロシティ量の解析結果と実験結果の比較を図5に示します.板の中央断面のポロシティ量が1.2〜1.8%で,解析と実験は良く一致しています.
図5 A356板状鋳物のポロシティ量の計算と実験の比較2)

 図6にA356合金足廻り部品のポロシティ欠陥予測について示します.(a)は閉ループによる解析で,固相率30%以下の未凝固域をメッシュの 稜線を赤く塗って表示してあります.実際には矢印の箇所に欠陥が発生するにもかかわらず,解析ではホットスポットが発生していません.ところが(b)に示す ようにデンドライト間流動を考慮した欠陥解析ではポロシティ1%以上の領域が発生し実際と一致しました.
図6 A356合金足廻り部品のポロシティ欠陥予測2)

 砂型アルミニウム合金鋳物のポロシティ量を透視図で出力した一例を図7に示します.内部のポロシティ量に応じて異なった色で欠陥を表示しています. 最近は鋳物の欠陥をCT検査することが出来るようになりましたが,このように表示することによって解析結果の妥当性をCT検査と比較して評価できるようになりました.
図7 デンドライト間流動考慮した場合のポロシティ量の透視図

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4.2 ダイカストのポロシティ欠陥

 ダイカスト製品は湯流れ時の溶湯の乱れによってガスの巻き込み欠陥を発生しやすく,熱処理した際にブリスター欠陥となってしまいます. CAPCAST®ではダイカスト鋳造における湯流れ時のガス巻き込みを考慮したポロシティ成長モデルを提案しました.堰前で高速切替した場合の 凝固後のポロシティ量の比較を図8に示します.ポロシティ量0.5%以上の領域を赤色で表示しています.(a)の700atm増圧した場合に比べて,(b)の200atm増圧の場合は 増圧の効果が小さくなるため,ポロシティ量0.5%以上の領域はかなり多くなっています.700atm増圧の場合のポロシティ量に及ぼす高速切替タイミングの影響を図9に示します. こちらもポロシティ量0.5%以上の領域を赤色で表示しています.堰前で高速切替した(a)よりも製品内で高速切替した(b)の方がポロシティ量が少なくなることが分かります.

図8 湯流れ時のガス巻き込み考慮したダイカストの凝固後の
ポロシティ量(ポロシティ量0.5%以上の領域)
図9 700atm増圧した場合の凝固後のポロシティ量に及ぼす
高速切替タイミングの影響(ポロシティ量0.5%以上の領域)

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4.3 外引け欠陥

 鋳物の表面が凹む外引け欠陥についても新しいモデルを提案しました.望まれる出力は鋳物表面引け位置と形状です. 凝固だけでなく液相及び固相の熱収縮を考慮することで,定量的な鋳物形状変化の予測が可能になります.球状黒鉛鋳鉄ブロック試験片の鋳物形状, 外引けの状況,解析結果を図10に示します.サイズの異なるブロック4つともに上面に外引け欠陥が発生しています.この解析では,まず鋳物と鋳型内の 温度変化を正確に知る必要があります.そして,過冷凝固,A1変態,生型の水分飽和域,黒鉛膨張についても考慮しています.解析結果は, 有限要素法メッシュを変形量だけ移動させて表示したもので,ブロック鋳物の上部が凹んで外引けになっていることが分かります. それぞれ隣に示している実験結果と良く一致しています.図10には,高温で注湯した際の元のサイズを実線で示しており,鋳造時の鋳物サイズの収縮についての情報も得られます.
図10 球状黒鉛鋳鉄のブロック鋳物の外引け解析2)

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4.4 ブローホール欠陥

 鋳物のポロシティ欠陥としては、ガスに起因するガスブローホールがあります.特に砂中子を使用する場合に鋳物中に中子発生ガスが取り込まれ ブローホール欠陥となることがよく知られています.CAPCAST®ではブローホール発生メカニズムを独自に提案しました. 砂型が加熱によってガスを発生し,ガスが砂型内または鋳物キャビティを通って大気中に逃げる過程を計算し,逃げ遅れた箇所でガス圧が高くなります. 図11に示すようにガス圧は鋳物・鋳型界面で最大値になります.この値と溶湯圧との差が臨界圧以上に大きくなればブローホールが発生すると考えられます. ブローホール欠陥の解析結果を図12に示します.パーティクル(図中の粒子状のマーカー)で示したのがブローホールです.このように,ポロシティ欠陥の1つである ガスブローホール欠陥についても解析が可能です.
図11 ポンプ鋳物の中子ガス圧力の計算と実験の比較2) 図12 ポンプ鋳物の中子ガスブローホール欠陥の解析

5.統合型鋳造シミュレーション

 マクロスケールの鋳造シミュレーションとミクロスケールの鋳造組織と機械的性質を結びつけた統合型鋳造シミュレーションシステムを図13に 示します.1)このように各部分の特性予測及び製品寿命予測を行うことによってプロセス・製品の最適化が可能になります.
図13 統合型鋳造シミュレーションシステム

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 ここでは,一例として自動車用アルミホイールについて紹介します.大口径(24インチ)アルミホイールの圧力制御による鋳造シミュレーションを 図14に示します.保持炉内溶湯表面の圧力を境界条件として解析したもので,鋳造時の保持炉内溶湯表面の位置の低下も考慮されています.(b)は注湯中のキャビティ内の ガス圧力の2相流流れ解析結果です.灰色の部分は溶湯が充填した部分で,色を塗った部分がキャビティのガス圧力になります.赤色に塗りつぶされているハブの未充填部分の ガス圧が高く,ガスの巻き込み欠陥が発生し易いことを示しています.次にストークからの溶湯補給圧力を考慮したポロシティ解析の結果を図15に示します. スポークの付け根部分に大きなポロシティ欠陥が発生していることが分かります.図16にポロシティ欠陥マクロスケール解析結果を示します.初期ガス量0.20cc/100gではスポークの付け根部分に大きなポロシティ欠陥が発生していることが分かります.これに対して初期ガス量0.15cc/100gでは,スポーク付け根部の欠陥量が大幅に少なくなっていることが分かります.このマクロスケールの結果を用いて,メゾスケールのマクロ結晶粒組織予測とポロシティ空洞予測を行います.
図14 大口径(24インチ)アルミホイールの注湯時のガス圧力分布
図15 ストークからの溶湯補給圧力を考慮したポロシティ解析 図16 ポロシティ欠陥マクロスケール解析結果

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 ここでは図17に示すポロシティの最も多かった水平断面について,セルサイズ200μmのCAメッシュを作成してマクロ結晶粒解析を行いました. 図18の(a) は初期ガス量0.20cc/100gの解析結果で,色は結晶粒方位を示しています.黒色部はポロシティ空洞領域を示しており,スポーク付け根部に数多く 分布しています.また,スポーク部にも少量分布していることがわかります.一方,初期ガス量0.15cc/100gでは図18の(b)に示すように,スポーク付け根部の ポロシティ空洞が減少しています.また,スポーク部にはほとんど空洞がないことが分かります.このようなメゾスケール解析を行うことで,溶湯中ガス量,合金成分, 鋳造条件による結晶粒組織とポロシティ空洞の違いを予測することが出来ます.
図17 メゾスケール解析の断面位置 図18 結晶粒組織とポロシティ空洞のメゾスケール解析結果

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 マクロスケールの凝固,欠陥解析で求めた温度,固相率,ポロシティサイズ,数をマクロ的な熱流とポロシティ発生の条件としてミクロスケールの MCAメッシュにマッピングすることによって,ミクロスケール解析を行うことができます.このようにCAPCASTRではマクロスケールとミクロスケールの連成計算が可能です. ミクロスケール解析領域は図19に示す1mmの正方形です.図20は初期ガス量0.20cc/100gの解析結果で,色は溶質濃度を示しています.ミクロ組織を見やすくするために, 凝固率約0.6の時点を示しています.図21は凝固が完全に終わった時点の解析結果で,黒色部はミクロポロシティです.2次デンドライトアームの間に存在する灰色の分散した 粒はSi相です.このようなミクロスケール解析を行うことで,鋳造ミクロ組織とミクロポロシティの定量的分布を予測することが可能になりました.
図19 ミクロスケールの解析領域
図20 ミクロ組織の解析結果(凝固率0.6) 図21 ミクロ組織とポロシティの解析結果

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 次にマクロスケールの変形応力解析を行い,実体強度予測を比較した結果を図22に示します.(a)はスポークを含む断面の最大主応力分布です. 荷重をかけた箇所と方向を図中に矢印で示しました.マクロスケール解析で求めたポロシティ量,デンドライト組織,化学成分から得られた引張強さ分布を(b)に示します. (a)と(b)を比較すると,図中に示した4箇所のスポーク付け根R部表面近傍が危険部位と判断されます.最大主応力が高く,かつ,ポロシティの影響で実体強度が 低くなっていることが原因です.

図22 変形応力解析と強度予測による危険部位予測

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6.単結晶タービンブレードの鋳造シミュレーション

 LMCプロセスによるタービンブレードの鋳造方法の一例を図23に示します.このような精密鋳造法は,鋳造組織制御を目的としており, その解析には次のような機能が必要です.

@鋳型‐高温炉間の放射伝熱
A鋳型が鉛直方向に降下
B液相金属内の自然対流
C単結晶凝固の取り扱い

CAPCAST®ではこれらの要因を全て考慮した解析を行っています.図24に,単結晶タービンブレードの鋳造方法を示します. 上記の要因を考慮して凝固シミュレーションを行い,CAFE法により結晶粒組織予測を行った結果を図25に示します.このように,単結晶を得るための鋳造条件を 決める上でも鋳造シミュレーションが役に立ちます.

図23 LMCプロセスによるタービンブレードの鋳造方法 図24 単結晶タービンブレードの
鋳造方法
図25 単結晶タービンブレードの
マクロ結晶粒組織予測

参考文献

1) Allisonら:ASMハンドブック22A,(2009),8
2) 久保:鋳造工学83,(2011),7,399
3) 久保:鋳造工学83,(2011),8,485
4) 久保:鋳造工学83,(2011),9,533



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